カーエアコン技術編・第15話
エアコンコンプレッサーを交換するとき、「届いた部品にオイルは入っている?」「念のため追加した方がいい?」「古いコンプレッサーから抜けた量に合わせればいい?」と迷うことがあります。
この記事では、コンプレッサー交換時にオイルを追加・調整する前の確認方法を、メーカー資料と当社の取替注意事項に沿って説明します。
コンプレッサーを交換しても、配管などに残る油はなくなりません。交換品の油だけを見て追加すると、サイクル全体では入れすぎになることがあります。必要量は車両・商品・修理内容によって異なり、一律に「何mL足す」とは決められません。
状況早見表|オイルを追加する前に
当てはまる項目を選ぶと、記事内の詳しい説明へ進めます。点検の手掛かりとしてご覧ください。症状だけで故障部品を決める表ではありません。
| 症状・知りたいこと | 確認する内容 |
|---|---|
| 交換品の封入状態が分からない | 説明書・ラベルの確認 |
| 旧品から抜けた量に合わせたい | その量を基準にできる条件 |
| 漏れ・洗浄・同時交換がある | 車両指定と修理内容の照合 |
| オイル入り冷媒缶を使いたい | 追加する前に確認すること |
| 黒い油・金属粉が出た | 油交換だけで済ませない理由 |
なぜ、コンプレッサーの中の油だけでは判断できない?
コンプレッサーオイルの一部は冷媒とともに循環し、コンデンサー、エバポレーター、配管などにも残ります。本体を取り外しても、車両側の油をすべて取り出したことにはなりません。
MAHLEの技術資料も、洗浄を伴わない交換では残留油を考慮し、過充填を防ぐ必要があると説明しています。[資料1]
当社のACコンプレッサー取替注意事項でも、サイクル内に残る油に注意し、油量を測定して使用するよう案内しています。
黄色は油の所在を示すイメージです。実際の油量・配分を示していません。見た目で残量を推測せず、対象車両と交換品の指定手順で調整してください。
オイルを追加・調整する前の確認順序
① 届いた交換品の説明書・ラベルを確認する
まず、封入オイルの種類と量、取り付け時の調整指示を確認します。「オイル入り」と書かれていても、その量で今回の修理に対応できるかは別に確認が必要です。
DENSOは、交換品の油量と車両メーカーの指定を照合するよう案内しています。同じコンプレッサー品番でも、シングル・デュアルエアコンなどで条件が異なる場合があります。[資料2]
油種・必要量・調整方法は、作業を行う整備工場で、対象車両・コンプレッサーの整備要領と製品資料を照合して確認してください。確認できるまでは、油を抜いたり追加したりする作業を進めないでください。
② 車両の指定と、今回の修理内容を照合する
車両の整備資料で、指定油種・必要量・交換時の補正方法を調べます。コンプレッサーだけの交換か、他の部品も交換するか、洗浄を行うかによって、車両に残る油の扱いが変わります。
「サイクル全体の指定量」と「今回追加する量」を混同しないことが大切です。全体の指定量を、そのまま追加する量として扱わないでください。
③ 旧品から取り出した油の量・状態と作業履歴を確認する
取り出した量を測り、漏れ、黒い汚れ、金属粉、過去の追加・修理歴も確認します。冷媒回収で取り出した油や、同時交換部品の油も、指定手順に沿って扱います。[資料1][資料4]
ただし、漏れがあった車では、取り外した時点ですでに油が減っていることがあります。「旧品から出た量=本来必要な量」とは限りません。
- 車両情報とコンプレッサー品番
- 交換品の封入油種・量と添付指示
- 車両指定の油種・量・交換時の調整方法
- 漏れ・汚染・同時交換部品・洗浄の有無
- 取り出した油量と過去の追加・修理記録
旧品から抜けた油量を基準にできるのは、どんな場合?
まず、旧品の油量が正常な状態を反映しているかを確認します。漏れで減った量や、過去に入れすぎた量をそのまま再現すると、交換後も油量が合いません。
| 交換前の状態 | 油量調整の考え方 |
|---|---|
| 漏れ・内部損傷・汚染がなく、洗浄を必要としない | 対象メーカーが指定する場合に、旧品から取り出した量を基準に調整します。元の油量が適正だったかも確認します。 |
| 漏れや、追加量の分からない補充歴がある | 旧品の量だけでは必要量を決められません。漏れ・補充の履歴と指定手順を確認します。 |
| 焼付き・金属粉などの内部損傷や汚染がある | サイクル内の点検、部品交換・洗浄の判断を先に行い、修理後の状態に合わせて油量を設定します。 |
| 他の部品も交換する、または洗浄する | 車両側に残る油が変わります。交換部品・洗浄範囲に応じたメーカーの調整指示を確認します。 |
この表はメーカー資料の適用条件を整理したものです。実際の取付では、商品の添付指示と当社の取替注意事項も確認してください。[資料1][資料3]
「交換品の封入量-旧品から抜けた量」を抜けばよい?
旧品と同量に合わせる方法が適用できる場合、交換品の油量をB、旧品から取り出した油量をAとすると、差はB-Aです。ただし、「洗浄しない」という条件だけで、この差を抜き取る方法を選ぶことはできません。
サンデンの資料は、内部損傷がなく洗浄を必要としない交換について、旧品の油を排出して量を測り、交換品の油も排出したうえで、旧品から取り出した量と同量の新しい指定油を入れる手順を示しています。抜き取り方も含め、対象製品の指定手順を使います。古い油は再使用しません。[資料3]
太田美品通商では、コンプレッサー交換時にエキスパンションバルブとレシーバー(ドライヤー等)の同時交換をお願いしています。焼付き・ロックが発生している場合は、サイクル内に残った金属片やスラッジへの対応も必要です。当社の取替注意事項をご確認のうえ、必要な交換部品をあわせてお探しください。
適合は品番・車両情報・現品写真で確認します。関連部品も必要な場合は、適合確認フォームに交換予定の部品をあわせてお知らせください。
オイル入り冷媒缶は、ガス充填のたびに必要?
オイルを追加する必要があるかを確認してから使います。冷媒の不足量とオイルの不足量は別です。ガスを補充するたびにオイルも足すと、サイクル内に油が残っている場合は過多になるおそれがあります。
- 油種:車両・コンプレッサー指定の種類と粘度に合っているか。
- 油量:缶に含まれるオイルの量と、今回必要な追加量が合っているか。
- 履歴:交換品の封入油や、過去に追加した油を考慮しているか。
缶の色や「エアコン用」という表示ではなく、製品表示と指定を照合します。オイルの過不足や不適切な油の使用は、冷房性能やコンプレッサーの寿命に影響します。[資料4]
よくある質問
オイルを多めに入れておけば、焼付き防止になる?
オイルは、指定量に合わせて使います。内部の潤滑・冷却に必要ですが、多すぎると冷房性能が低下し、コンプレッサーの寿命にも影響します。焼付きが心配だからと多めに入れるのではなく、車両側に残る油と交換品の封入油を考慮して調整してください。[資料4]
異音がある場合も、まず原因を点検します。音を消す目的で、必要量を確認せずに油を追加しないでください。
「エアコン用」「PAG」と書いてあれば使える?
その表示だけでは決められません。指定の種類・粘度などを確認します。DENSOは、不適切な油や異種油の混合による潤滑・循環への影響を説明しています。[資料4]
別メーカーや別方式の作業方法を混ぜず、対象の車両とコンプレッサーに適した油を使ってください。
黒い油や金属粉が出たら、油を交換するだけでよい?
サイクル内の汚染確認と、関連部品の交換・洗浄の判断が必要です。DENSOは、汚染の種類・程度によって修理方法を分け、洗浄だけでは対応できない条件も示しています。[資料2]
油の色だけで原因を断定せず、現品と作業記録を確認します。詳しくはコンプレッサーのロック・焼付きと交換時の注意点をご覧ください。
冷媒の充填量とオイル量は同じもの?
別に確認するものです。冷媒を何g入れるかが分かっても、オイルの追加量は決まりません。冷媒充填は第14話:冷媒缶・ゲージで行う手動充填の基本で説明しています。
油量を合わせた後は、始動前・初期運転の手順も確認
油量の調整と、取り付け後に油を行き渡らせる作業は、両方の確認が必要です。DENSOは、対象製品について手回しによる油の分散を案内し、取付資料では初期潤滑のための慣らし運転も示しています。[資料4][資料2]
手回しを行う部位・回数・作業時点は、対象製品の取付説明書で確認してください。「プーリーを何回か回す」という自己流の手順に置き換えず、指定された部位を指定の方法で操作します。
DENSOの取付資料では、取付後の慣らし運転として、最低温度・最大風量に設定し、エンジンをアイドリングに保ったままA/Cを最低5分間作動させ、その間は回転数を上げない手順を示しています。これは同資料の対象製品に対する案内です。実車では、必要な充填・取付確認を終えてから、車両と交換品の指定手順に従って始動・作動確認を行ってください。[資料2]
まとめ
- 交換品の封入量と、車両側に残る油の両方を確認する。
- 車両・商品の指定と、漏れ・洗浄・同時交換の有無を照合する。
- 旧品から取り出した量を基準にできるか、適用条件を確認する。
- 油種・必要量・調整方法は、作業を行う整備工場で対象車両・コンプレッサーの整備要領を確認する。
参考資料・関連記事
- 資料1:MAHLE Technical Messenger 04/2021:Oil quantity distribution in air conditioning circuits(PDF)
- 資料2:DENSO A/C Compressor Installation Guide(PDF・英語版4〜6ページ)
- 資料3:Sanden Compressor Installation Instructions(PDF)
- 資料4:DENSO:Compressor oil: all you need to know
- 太田美品通商:ACコンプレッサー取替注意事項
- 交換したコンプレッサーから異音がする場合の確認
整備工場での確認と、交換部品の適合・在庫確認
- 取り外した理由、漏れや異音の状況、過去のガス・オイル追加歴
- 今回交換する部品と、取り出した油量・状態
- 車両・交換品の指定油種、封入量、添付説明書の内容
オイルの種類・必要量・交換時の調整方法は、車両や修理内容によって異なります。作業を行う整備工場で、対象車両・コンプレッサーの整備要領をご確認ください。
太田美品通商では、コンプレッサー・エキスパンションバルブ・レシーバー等の適合・在庫確認を承ります。ご注文前に、品番・車両情報・現品写真をお送りください。現品写真は、無理な取り外し・分解をせず、整備工場で確認できる範囲でご用意ください。
本記事は代表的な点検の考え方を整理したものです。車種・コンプレッサー方式により構造や指定値は異なります。実車の整備は車両・部品メーカーの整備要領に従ってください。メーカー資料は対象製品と適用条件を確認してください。アイキャッチの部品はイメージであり、特定商品の外観・適合を示すものではありません。

