交換したエアコンコンプレッサーから異音|原因確認と再発を防ぐ点検

カーエアコン技術編・第13話

「交換したばかりのコンプレッサーから音がする。交換した部品が悪いのでは?」と感じるのは自然なことです。異音があれば、まず発生箇所を確認する必要があります。

ただし、コンプレッサーは単独で働く部品ではありません。車両に残っている冷媒回路につながり、その中の冷媒を圧縮して循環させます。本体を交換しても、放熱不良・冷媒量の不適正・潤滑不足などが残っていれば、交換した本体にも負担がかかります。

音が出ている場所と、音を出させた原因は、同じとは限りません。

そのため、交換後の異音では「本体の状態」と「車両に取り付けた後の作動条件」を合わせて調べます。これは原因を残して再交換し、同じ不具合を繰り返さないための確認です。

太田美品通商では、現場での対応経験から、冷媒量・オイル管理・関連部品の点検など、整備上の不備が関係する異音を多く見ています。この記事では、なぜそうした確認が必要なのか、何を根拠に修理範囲を判断するのかを説明します。

太田美品通商では、コンプレッサーの出荷前に必ず異音のテストも行っています。

出荷前のテストと、実際の車両に取り付けて動かすときでは、冷媒量・オイルの状態・放熱などの条件が異なります。交換後に異音が出た場合は、テスト時にはなかった負担がかかっていないか、車両側の状態と本体の両方を確認します。

大きな異音・焦げ臭いにおい・煙がある場合は、再現確認のために使い続けず、A/Cの使用をやめて整備工場へ相談してください。音が残る、警告灯が点灯するなどの場合は安全に停車し、ロードサービス等へ相談します。

早見表|異音がするときに確認したいこと

当てはまる項目を選ぶと、記事内の詳しい説明へ進めます。点検の手掛かりとしてご覧ください。症状だけで故障部品を決める表ではありません。

症状・知りたいこと 確認する内容
A/Cオン・オフで音が変わる 作動との関係と発生箇所
交換した直後から音がする 交換・補充時の確認事項
ベーン式でジージー音がする 油膜不足などの確認
そのまま使ってよいか知りたい 使用継続と再交換の注意点
本体不良か判断したい 判断に必要な点検結果

動画で見る|交換後の異音と、車両側に残る原因

冷却ファンの不調で放熱が悪くなり、コンプレッサーに負担がかかる流れを動画で紹介します。34秒からは、正常なピストンと過熱したピストンを比較し、熱膨張・油膜・壁との接触を説明しています。

約1分24秒・字幕付き。膨張やすき間は見やすく誇張した模式図です。実際の変化は材質・温度差・潤滑状態で異なります。高圧保護制御による停止動作は省略しています。

動画が表示されない場合はYouTubeで見る

なぜ、コンプレッサー以外も点検するのか

図1|本体を交換しても、車両側の原因は残ることがある
① 交換したコンプレッサー
冷媒を圧縮して送り出す
↓
② コンデンサー・冷却ファン
熱を車外へ逃がす部分
放熱不良が残る → 吐出側の圧力が高くなり、本体の圧縮負担が増す
↓
③ レシーバー/ドライヤー → ④ エキスパンションバルブ
異物・水分の管理、冷媒流量の調整
汚れや詰まりが残っていないか確認
↓
⑤ エバポレーター → ① コンプレッサーへ戻る
冷媒とともにオイルの一部も循環
オイル量・種類・循環が不適切 → 内部の潤滑不足につながる
回路全体で管理するもの:冷媒の種類・充填量/指定オイルの種類・量
これらはコンプレッサーを交換するだけでは適正になりません。

矢印は冷媒の流れです。レシーバー式の概念図で、一体型など実車の構造は異なります。詰まりの点検では、高圧・低圧と各部の温度を合わせて確認します。

異常高圧による異音|なぜ圧力が上がったかを確認

コンプレッサーは、冷媒を圧縮して高圧側へ送り出します。ほかの条件が同じなら、送り出す側の圧力が高くなるほど圧縮に必要な仕事が増え、駆動する側にも負担がかかります。その状態で音や振動が増している場合は、本体だけでなく冷凍サイクルの状態を確認します。

確認項目には、コンデンサーの放熱、冷却ファンの作動、冷媒の充填量、空気の混入などがあります。配管や部品の詰まりが疑われる場合は、高圧・低圧と各部の温度を測り、冷媒の流れが悪くなっている箇所を調べます。詰まる場所や程度によって、圧力の変化は異なります。DENSOの圧力診断資料

高圧保護制御を備えるクラッチ式では、異常高圧の検出時にクラッチを切り、コンプレッサーを停止させます。ただし、保護制御があるから使い続けても安全、という意味ではありません。停止する原因を調べる必要があります。

詳しくは高圧が高くなる原因と確認ポイントをご覧ください。

ベアリングの異音|「熱でグリスが傷む」とは

ここでいうベアリングは、主にベルト駆動のコンプレッサーのプーリー側のベアリングです。コンプレッサー内部の冷媒用オイルとは、潤滑する場所が異なります。

ベアリングの中には、回転を滑らかにするグリスが入っています。高温にさらされてグリスが傷んだり、外へ流れ出たりすると、十分に潤滑できなくなります。その状態で回り続けるとベアリングが傷み、異音につながります。

熱の原因は異常高圧に伴う負荷だけとは限りません。クラッチの滑りなどでも発熱します。ベアリングの損傷や異音だけから、過去の異常高圧を断定することはできません。サンデンの資料では、クラッチの滑りに伴う過熱とベアリングシールへの影響を説明しています。

図2|グリスと冷媒用オイルは、潤滑する場所が違う
外側:プーリーのベアリング

潤滑剤:ベアリングのグリス
プーリーの回転を支える部分。
冷媒回路へオイルを追加しても、このグリスを補充することにはなりません。

内側:冷媒を圧縮する機構

潤滑剤:指定の冷媒用オイル
ベーン・ピストンなどの内部機構。
オイルの種類・量・循環状態を確認します。

位置と潤滑剤の違いを示す概念図です。形状・油面・量は実物を再現したものではありません。

ベーン式のジージー音|油膜不足にも注意

ベーン式は、回転するローターと、そこから出入りする板状のベーンなどで冷媒を圧縮する構造です。部品が擦れ合う面は、薄いオイルの膜で守られています。

太田美品通商では、ベーン式の潤滑不足が関係するケースで「ジージー」と表現される異音を確認しています。ただし、音の呼び方や聞こえ方には個人差があり、その音だけで油膜不足と判断することはできません。

図3|油膜は、擦れ合う面を守っている
油膜が保たれる状態

金属面
相手側の金属面

水色が油膜。金属同士の直接接触を抑えます。

油膜が不足した状態

金属面
相手側の金属面

接触・摩擦が増え、摩耗や異音につながることがあります。

摺動面を拡大・単純化した模式図です。実際の油膜の厚さやベーン形状を示すものではありません。

確認するのは、オイルの量だけではありません。指定の種類・粘度が守られているか、冷媒やオイルの循環が妨げられていないか、漏れや過去の修理で失われた分を適切に管理しているかも重要です。オイルには潤滑と冷却の役割があります。DENSOのコンプレッサーオイル資料

整備不良を防ぐため、交換・補充時に見落としたくないこと

交換した部品が正常でも、取り付け後の冷媒量・潤滑・放熱などが適切でなければ、不具合を起こすおそれがあります。特に整備後から音が出たときは、次の作業内容と記録を確認します。

整備時の確認項目

  1. 冷媒量を感覚で決めていないか
    冷媒の種類と車両指定量を確認し、必要な回収・真空引き後に重量で管理します。
  2. オイルの種類・総量を確認したか
    新しいコンプレッサーに入っている量だけでなく、車両側に残る量や交換部品に伴う調整を、整備要領に従って確認します。
  3. 汚れ・金属粉・詰まりの確認を省いていないか
    旧部品の損傷状態を踏まえ、レシーバー/ドライヤー、配管、コンデンサーなどの交換・洗浄可否を判断します。洗浄できない構造の部品もあります。
  4. 冷却ファンと放熱状態を確認したか
    コンプレッサー交換だけでは、放熱不良は解消しません。
  5. 取り付けと駆動系を確認したか
    ベルト、テンショナー、ブラケット、締結部、配管の接触なども確認します。
  6. 作業後に作動確認を行ったか
    指定条件で圧力・温度・冷え・異音・漏れを確認し、作業前後の状態を記録します。

「音が出たからオイルを足す」「冷えないから追いガスする」という対応は避けてください。過剰な追加も不調の原因になり、原因の確認を難しくします。安易な冷媒補充のリスクも参考にしてください。

A/Cオン・オフで音が変わる場合の見方

音が出るタイミングは、発生箇所を探す手がかりです。次の区分は交換部品を決める診断表ではありません。

A/Cオン時に出る

圧縮負荷、内部の潤滑、クラッチ、負荷がかかったときのベルトや取り付け部などを確認。

A/Cオフでも続く

一般的なベルト駆動のクラッチ式では、オフでもプーリーが回ります。プーリーベアリングや周辺補機などを確認。

つながる瞬間だけ鳴る

一度の接続音と、以前になかった大きな衝撃音・繰り返す異音を区別。作動条件も確認。

クラッチのない方式や電動式では、この区分をそのまま使えません。また、周辺のベルト・プーリー・補機の音をコンプレッサーの音と感じる場合もあります。サンデンの整備資料でも、異音点検では周辺部品と内部の両方を確認項目に挙げています。

使い続けてよい?交換すれば直る?

冷えているなら、異音があっても使えますか?

冷房が効くことと、潤滑や部品の状態が正常であることは同じではありません。新しく発生した異音や悪化する音は、放置せず点検を受けてください。音を再現するための高回転運転や長時間の作動は避けます。

コンプレッサーだけ交換すれば直りますか?

異音の発生源が本体であっても、その本体に負荷や潤滑不足を生じさせた原因が残れば、再発するおそれがあります。一方で、内部部品の損傷など本体側の不具合も点検対象です。作動時の測定結果と現品状態から、修理範囲を判断します。ロック・焼付きと交換時の注意点をご覧ください。

修理後すぐの異音は、整備不良ですか?

整備内容の確認は重要ですが、発生時期だけでは断定できません。充填・オイル調整・関連部品交換の記録、作動時の圧力・温度、発生箇所などを合わせて確認します。

「本体が悪いのか」を判断するために必要な根拠

当社では出荷前に異音のテストも必ず行っています。交換後に異音が発生した場合は、どの条件で音が出るのか、交換時にどのような作業を行ったかを整備工場と確認します。作業記録と実車の測定結果、本体の状態を照らし合わせ、原因を調べます。

確認する根拠 何を確かめるためか
異音の発生箇所・A/Cオン/オフ・冷間/温間 内部、クラッチ・プーリー、ベルトや周辺部品のどこから出ているか。
異音発生時の高圧・低圧・各部温度と測定条件 外気温・回転数などを記録し、車両指定の条件と照合する。高圧の値だけで原因を確定しない。
冷却ファン・コンデンサーの点検結果 放熱不良が本体に負担をかけていないか。
冷媒の回収量・充填量と作業記録 指定冷媒・指定量で整備されているか。回収量は装置内残留なども考慮し、それだけで断定しない。
オイルの種類・調整量・交換部品の記録 新しい本体の封入量と車両側の残油、失われた量を踏まえた管理か。抜けた量だけを総量とみなさない。
現品の損傷・汚染状態と修理履歴 摩耗・焼損・異物などを測定結果と照合する。黒いオイルや損傷写真だけで発生原因を決めない。

関連する不適正が確認された場合は、その是正と本体の損傷確認を行います。作動条件に問題が見つからなければ、本体側の不具合も引き続き点検します。判断材料が不足している段階では、原因を確定せず追加確認を行います。

整備工場からお客さまへ説明する例

次は説明の組み立て方を示す仮定例です。実際の測定値や確認結果に置き換えて説明してください。

例:冷却ファンの作動不良と、規定条件で高圧側の異常を確認した場合

「異音はコンプレッサー付近で確認しました。同時に、コンデンサーを冷やすファンが正常に作動せず、高圧側の圧力が指定条件に対して高いことも確認しています。

この状態では、交換したコンプレッサーも高い圧力に向けて冷媒を送り出すため、負担がかかります。コンプレッサーをもう一度交換するだけでは、ファンの不具合は残ります。

まず放熱不良を修理し、本体にも損傷が出ていないかを確認します。その結果を踏まえて、必要な交換範囲をご説明します。」

確認した事実 → 部品への影響 → 必要な修理の順に説明すると、なぜ本体以外の点検や修理も必要なのかが伝わります。放熱不良が見つかっても、すべての異音をそれだけで説明できるとは限らないため、是正後も必要な確認を行います。

購入・交換後の異音を相談するとき

当社から購入した部品で異音が発生した場合は、注文情報、車両情報、現品品番、交換日、作業内容、測定記録をそろえてご連絡ください。当社への確認を行わないまま、現品を分解・加工・廃棄しないでください。状態が変わると、原因の確認が難しくなります。

本記事は点検理由を説明するもので、個別案件の原因や保証判定を代替するものではありません。実際の受付・判断は、購入時の保証条件と確認結果に基づきます。

相談時に伝える情報と、交換部品の適合確認

整備工場へ伝えるメモ

  • A/Cオン・オフのどちらで鳴るか
  • 始動直後/温まってから/停車中などの発生条件
  • 冷えの変化・臭い・警告表示の有無
  • 音が出始めた時期と、直前の整備内容
  • 冷媒補充、オイル・添加剤の追加、部品交換の履歴

録音する場合は安全に停車し、車内など安全な場所から行ってください。回転中のベルト・ファンへ手やスマートフォンを近づけず、配管を緩めたり、クラッチを強制作動させたりしないでください。

実車の故障診断は整備工場へ。交換する部品が決まったら、太田美品通商へ品番・車両情報・現品写真をお送りください。現品写真は、無理な取り外し・分解をせず、整備工場で確認できる範囲でご用意ください。

ご注文前に、交換部品の適合確認を

車両情報、ラベル・刻印の品番、部品全体と接続部の写真で確認します。

適合確認フォーム LINEで相談 メールで相談

本記事は代表的な点検の考え方を整理したものです。車種・コンプレッサー方式により構造や指定値は異なります。実車の整備は車両・部品メーカーの整備要領に従ってください。冒頭の画像はイメージで、特定製品の形状・適合を示すものではありません。