カーエアコン技術編・第5話
コンデンサーやレシーバーを通過した高圧の液冷媒が、次に向かうのがエキスパンションバルブ(エキパン)です。
エキスパンションバルブは、高圧の液冷媒を減圧し、エバポレーターへ送る冷媒量を調整する部品です。
詰まり・固着・開きすぎなどが起きると、冷え不良や圧力異常、液戻りなどにつながる場合があります。
この記事では、エキパンの役割と不良時の症状、エバポレーターの働き、過熱度や凍結の仕組み、コンプレッサー交換時にエキパンを同時交換する理由を解説します。
エキスパンションバルブの役割
コンデンサーで放熱・凝縮された冷媒は、高圧の液冷媒としてエキスパンションバルブへ送られます。
エキパンは冷媒を狭い流路に通して減圧し、低圧・低温の状態でエバポレーターへ供給します。
- 高圧の液冷媒がエキパンへ入る
- 狭い流路を通って減圧される
- 一部の液冷媒が気化する
- 低圧・低温の液体とガスが混在した状態で、エバポレーターへ入る
減圧すると、なぜ低温になる?
冷媒が高圧側から低圧側へ減圧されると、一部の液冷媒が気化し、低温の液体とガスが混ざった状態になります。
圧力が低くなることで、エバポレーター内では冷媒が低い温度で蒸発できるようになります。
冷房負荷に応じて冷媒量を調整する
一般的な感温式エキスパンションバルブ(TXV)は、エバポレーター出口側の冷媒状態に応じて開度を変え、送り込む冷媒量を調整します。
冷房負荷に対して冷媒が少なすぎると、エバポレーター全体を十分に使えず、冷房能力が低下します。反対に多すぎると、冷媒が蒸発しきれず、液戻りのリスクが高まります。
過熱度とは?液戻りとどう関係する?
過熱度は、ガス冷媒の温度が、その圧力に対応する蒸発温度(飽和温度)より何度高いかを表します。
過熱度 = ガス冷媒の温度 − その圧力に対応する飽和温度
エバポレーターでは、液冷媒が熱を吸収して蒸発します。蒸発し終えたガス冷媒がさらに熱を受けると、過熱度が生じます。
冷媒の供給が過剰になると、十分に蒸発しきれず、過熱度が不足する場合があります。その状態では、液冷媒がコンプレッサー側へ戻る可能性に注意が必要です。
適正な過熱度や測定方法は車種・システム・運転条件によって異なります。固定の数値だけで判断せず、対象車両の整備要領書を確認します。
エキパン不良で起こる症状

画像を押すと、大きな図を別タブで確認できます。
① 詰まり・閉じすぎ
流路が詰まったり、必要以上に閉じた状態になったりすると、エバポレーターへ供給される冷媒量が不足します。
- 低圧側の圧力が低下しやすくなる
- エバポレーター全体を十分に使えなくなる
- 吹出口温度が下がらず、冷房能力が低下する
- 条件によっては高圧側の圧力が上昇する場合がある
ただし、詰まると必ず高圧が上がるわけではありません。冷媒が上流側に滞留する条件では高圧が上昇することがありますが、詰まりが強く、循環量が極端に減った場合などは、高圧側も十分に上がらないことがあります。
高圧・低圧、冷媒量、配管温度、霜付き、エバポレーターの風量などを組み合わせて判断します。
② 開きすぎ・開いたままの固着・制御不良
エキパンが必要以上に開くと、エバポレーターへ冷媒が過剰に供給される場合があります。
- 冷媒が十分に蒸発しきれなくなる
- 過熱度が不足する
- 低圧側の圧力が高めになる場合がある
- 冷えが弱くなったり、不安定になったりする
- 液冷媒がコンプレッサー側へ戻るリスクが高まる
コンプレッサーは、基本的にガス冷媒を吸入する前提で作動します。液冷媒が大量に戻ると、液圧縮や潤滑状態の悪化により、内部へ大きな負担を与える可能性があります。
なお、エバポレーターの凍結は、開度だけで判断できません。蒸発圧力、風量、温度センサー、凍結防止制御なども確認します。
低圧と配管温度から、開きすぎ・詰まりを確認する
低圧が高く、低圧ホースやサービスバルブ付近が異常に冷たい場合は、エキパンの開きすぎを確認します。外付け感温筒を使う構造では、感温筒と配管の接触状態も点検対象です。通常の結露と、異常な冷え・霜付きを区別して記録します。
低圧が低く、エキパン付近に霜が付く場合は、詰まりや凍結を確認します。配管温度、冷媒量、エバポレーター側の風量と合わせて、冷媒の供給が不足している箇所を調べます。
点検時は「霜があった」だけでなく、エキパン本体・入口側・出口側のどこに出たかを記録してください。確認できた場所が分かる写真と、同時に測った高圧・低圧があると、相談時に状態を伝えやすくなります。
技術参考:DENSO コンプレッサー診断表
エバポレーターは車室内の熱を吸収する
エバポレーターは、車室内側の空調ユニット内部に設置される熱交換器です。
エキパンを通過した低圧・低温の冷媒が入り、空気から熱を吸収しながら蒸発します。ブロワによって送られた空気は、エバポレーターを通る際に冷やされ、車室内へ送られます。
エバポレーターでは、冷媒が蒸発するときに空気の熱を吸収しています。
冷房と同時に除湿も行う
湿った空気が冷たいエバポレーターを通ると、条件に応じて空気中の水分がフィン表面で結露します。この水がドレンホースから車外へ排出されることで、除湿も行われます。
エアコン作動中や作動後に車両の下へ落ちる水は、正常な結露水である場合があります。
エバポレーターが凍る「フロスト」
エバポレーターの表面温度が下がりすぎると、水分が霜や氷になって付着します。この状態をフロストと呼びます。
フィンが氷で覆われると空気の通り道が狭くなり、吹出口の風量や冷房能力が低下します。
- 最初はよく冷える
- エバポレーターが徐々に凍結する
- 吹出口の風量が弱くなり、冷えにくくなる
- エアコンを止めて氷が溶けると、再び冷える
こうした症状では、エキパンだけでなく、エバポレーター温度センサー、ブロワ風量、キャビンフィルター、冷媒量、制御系も確認します。
凍結を防止する仕組み
車種やシステムによって、次のような装置や制御を用いて、エバポレーター温度や蒸発圧力が下がりすぎないようにしています。
- エバポレーター温度センサー/サーミスタ
- マグネットクラッチのON・OFF制御
- 可変容量コンプレッサーの制御
- EPR(エバポレーター圧力調整弁)
すべての車両に同じ装置が備わっているわけではありません。対象車両の構成を確認します。
固定オリフィスチューブを使う方式もある
すべてのカーエアコンが、開度を変えるエキスパンションバルブを使用しているわけではありません。
固定オリフィスチューブは、固定された小孔で冷媒を減圧します。一般的なTXVのように開度を変えて流量を調整せず、アキュムレーターやコンプレッサー制御などと組み合わせて冷凍サイクルを構成します。
コンプレッサー交換時にエキパンも交換する理由
太田美品通商では、A/Cコンプレッサー交換時に、レシーバーとエキスパンションバルブの同時交換を最低限必要としています。
① 細い流路に異物が入り込む可能性がある
コンプレッサーが焼き付いたり内部破損したりすると、金属粉、摩耗粉、劣化オイル、スラッジなどが冷媒回路へ流出する場合があります。
エキパン内部には、流量を調整する狭い流路やニードル機構があります。異物が入り込むと、詰まり・固着・作動不良の原因になる可能性があります。
② 細かな内部機構を十分に洗浄することが難しい
冷媒回路をフラッシングする場合でも、エキパンを通したまま回路全体を洗浄するのではなく、取り外しや交換を含め、メーカー指定の手順に従います。
エキパンの細かな内部機構に異物が残っていないことを、洗浄だけで確実に確認するのは困難です。
③ エキパンの異常が、元の故障原因だった可能性がある
コンプレッサー故障によってエキパンが汚染される場合だけでなく、エキパンの異常が先に発生していた可能性も考えます。
冷媒循環量が減り、冷媒やオイルの戻り、コンプレッサーの潤滑・冷却条件が悪化する可能性があります。
開きすぎ・制御不良の場合
冷媒の過剰供給によって過熱度が不足し、液戻りによるコンプレッサーへの負担が増す可能性があります。
新しいコンプレッサーを取り付ける際には、異物や作動不良などの原因を残さないことが重要です。
同時交換とあわせて、冷凍サイクル全体を確認する
レシーバーとエキパンを交換すれば、すべての原因が解消するわけではありません。コンプレッサー故障時には、次の項目も確認します。
- コンデンサー内部の汚染と放熱状態
- 冷却ファンの作動
- 異常高圧の有無
- 冷媒の過充填・不足
- コンプレッサーオイルの量・種類
- 配管内部の詰まり
- 水分や空気の混入
- エバポレーター側の状態
壊れた部品を交換するだけでなく、なぜ壊れたのかを確認することが再故障防止につながります。
冷え不良だけでエキパン不良と決めつけない
冷え不良は、冷媒不足・過充填、コンプレッサーの能力不足、コンデンサーの放熱不足、冷却ファン不良、レシーバーの詰まり、配管の流路制限などでも起こります。
また、エバポレーターの凍結、ブロワ風量不足、各種センサーや制御の異常も確認が必要です。
圧力値や症状を、一つだけ見て故障部品を断定しないことが重要です。
高圧・低圧、冷媒量、配管温度、霜付き、吹出口温度、風量などを総合して診断します。
まとめ|エキパンは減圧と冷媒流量の調整を担う
- エキパンは高圧の液冷媒を減圧し、エバポレーターへ送る量を調整します。
- 詰まりでは冷媒供給が不足し、低圧側が低下しやすくなります。
- 詰まり時の高圧側の挙動は、循環量や運転条件などで変わります。
- 開きすぎでは、過熱度不足や液戻りに注意が必要です。
- エバポレーターでは、冷媒の蒸発による吸熱と、結露による除湿が行われます。
- 凍結による風量低下では、温度センサー・風量・制御系なども確認します。
- 当社では、コンプレッサー交換時にレシーバーとエキパンの同時交換を最低限必要としています。
- 再故障防止には、冷凍サイクル全体から原因を確認することが重要です。
第6話:カーエアコンのエバポレーターとは?
空気を冷やす仕組みと除湿、凍結による風量低下、点検時の確認ポイントを解説します。
本記事は、代表的な感温式エキスパンションバルブを使用するカーエアコンを中心に解説しています。バルブ構造、オリフィスチューブ方式、圧力挙動、過熱度、凍結防止制御などは、車種・年式・冷媒・システム構成・運転条件によって異なります。
実車の点検・修理では、対象車両の整備要領書およびメーカー指定値を確認してください。
部品の適合確認には、品番・車両情報・現品写真をご用意ください。車台番号は省略せず全桁お知らせください。
