カーエアコン技術編・第7話
カーエアコンが冷えないとき、整備工場では高圧側・低圧側の圧力を測り、冷凍サイクルの状態を確認します。
高圧・低圧は、故障原因を絞り込むための診断材料です。圧力だけで故障部品を断定することはできません。
圧力は冷媒量だけでなく、外気温、熱負荷、回転数、風量、エキスパンションバルブの状態、コンプレッサーの制御方式などによっても変わります。
この記事では、高圧側・低圧側の位置、代表的な圧力パターンから考えられる原因候補、実車の診断で確認したい項目を解説します。
高圧側・低圧側はどこ?
一般的なエキスパンションバルブ方式では、冷媒はコンプレッサー、コンデンサー、レシーバー、エキスパンションバルブ、エバポレーターを通り、コンプレッサーへ戻ります。
コンプレッサーの吐出側から、エキスパンションバルブの入口まで。
コンデンサーやレシーバーは、この高圧側にあります。
エキスパンションバルブの出口から、コンプレッサーの吸入側まで。
エバポレーターは、この低圧側にあります。

画像を押すと、大きな図を別タブで確認できます。
コンプレッサーは低圧のガス冷媒を吸入し、圧縮して高温・高圧のガス冷媒として送り出します。
コンデンサーで放熱・凝縮した冷媒は、高圧の液冷媒としてエキパンへ送られます。エキパンで減圧された後は、エバポレーターで熱を吸収しながら蒸発し、コンプレッサーへ戻ります。
なぜ高圧と低圧をセットで測るのか?
両方の圧力を確認すると、圧縮・放熱・凝縮・減圧・蒸発などがどのような状態にあるかを考える手掛かりになります。
- 高圧側:コンプレッサーの圧縮や、コンデンサーの放熱・凝縮状態を考える材料
- 低圧側:冷媒の供給、蒸発、エバポレーターでの吸熱状態を考える材料
- 両者の組み合わせ:重点的に点検する箇所を絞り込む材料
ただし、冷凍サイクルの各部は互いに影響します。高圧側の測定値が高圧側の部品だけ、低圧側の測定値が低圧側の部品だけを表すわけではありません。
正常圧力は、車両と測定条件で変わる
すべての車両に共通する一組の圧力値だけで、正常・異常を判断することはできません。圧力に影響する主な条件には、次のものがあります。
- 外気温と車室内の熱負荷
- 冷媒の種類と充填量
- エンジン回転数
- ブロワ風量
- コンデンサーへの風量と冷却ファンの作動
- エキスパンションバルブの状態
- コンプレッサーの種類・制御方式
可変容量コンプレッサーなど、制御によって圧縮量が変わるシステムでは、制御状態もあわせて確認します。
実車では、対象車両の整備要領書に記載された測定条件と基準値を優先します。
代表的な4つの圧力パターン
ここでいう「高い・低い」は、対象車両の指定条件における基準と比較したものです。以下は原因候補を考えるための傾向で、故障部品を確定する表ではありません。

画像を押すと、大きな図を別タブで確認できます。
① 高圧・低圧とも高い
代表的な確認項目は、冷媒の過充填やコンデンサーの放熱不足です。
コンデンサーフィンの汚れ・詰まり、冷却ファンの作動不良などで風量が不足すると、十分に放熱・凝縮できず、高圧側が上がる原因になります。規定量を超えた冷媒充填でも、圧力が高くなる場合があります。
② 高圧・低圧とも低い
冷媒不足が代表的な原因候補の一つです。ただし、圧力だけで不足と確定せず、測定条件や他の点検結果と照合します。
不足が確認された場合は、補充だけで終わらず、ホース・配管・Oリング・接続部・コンデンサー・エバポレーター・コンプレッサー周辺などから漏れていないかを調べます。
③ 高圧が低く、低圧が高い
コンプレッサーが十分に圧縮できていない可能性を考えます。圧縮能力が低下すると、低圧側を十分に下げられず、高圧側も十分に上げられない場合があります。
ただし、エキパンの開きすぎや制御異常などでも似た傾向が出る場合があります。コンプレッサー本体の故障と即断せず、作動・制御状態も確認します。
④ 高圧が高く、低圧が低い
高圧側から低圧側へ、冷媒が十分に流れていない可能性を考えます。
- エキスパンションバルブの作動不良
- レシーバードライヤーの流路制限
- 液配管などの流路制限
なお、流路制限があっても、高圧側の挙動は条件によって異なります。エキパンが詰まれば必ず高圧が上がる、という判断はできません。
高圧側が高すぎる場合は、まずコンデンサーの放熱・冷却ファン・冷媒の過充填を確認し、整備履歴によっては空気などの非凝縮ガスの混入も調べます。一方、圧縮不足では、高圧側を十分に上げられず、低圧側を十分に下げられない傾向が見られます。「高圧が高いからコンプレッサー交換」とは判断せず、どちらの状態なのかを切り分けることが大切です。
技術参考:DENSO コンプレッサー診断表(原因候補の参考。実車の数値・手順は車両メーカーの整備要領を優先します)。
圧力を見たあと、どこを確認する?
例えば、高圧・低圧がどちらも低いときは冷媒不足を疑います。そこから配管接続部の油染みや漏れ検知器での反応を確認すると、修理する箇所を絞れます。圧力に、温度・霜・漏れ跡を組み合わせて点検します。
表の「高い・低い」は、車両指定の測定条件と基準値に対する比較です。整備工場での点検の目安としてご覧ください。
| 圧力・症状 | 疑う状態 | 次に確認する箇所 |
|---|---|---|
| 高圧・低圧とも低く、冷えが弱い | 冷媒不足 | 接続部・シール部などの油染みと漏れ。冷媒量の確認方法は車両の指定に従う。 |
| 高圧・低圧とも高い | 過充填、コンデンサーの放熱不足 | 規定充填量と作業記録、フィンの汚れ、冷却ファンの作動・風量。 |
| 低圧が高く、低圧ホースやサービスバルブ付近が異常に冷たい | エキパンの開きすぎ、外付け感温筒の接触不良 | 配管温度、エキパンの作動。感温筒がある構造では取付状態も確認。 |
| 低圧が低く、レシーバー前後に温度差がある | レシーバーの詰まり | 入口・出口の温度。詰まりが著しい場合は出口側配管に霜が付くことがある。 |
| 高圧が低く、停止直後に高圧・低圧が急速に均圧する | コンプレッサー内部の弁の損傷・異物噛み込みなど | 運転中の圧力差、実際の駆動・制御状態と停止後の変化を記録し、指定の圧縮点検を行う。 |
低圧配管の結露だけでは異常とはいえません。冷え具合と圧力を合わせ、どの位置が異常に冷たいか、どこに霜が付くかまで確認します。
技術参考:DENSO コンプレッサー診断表
停止後に圧力がそろうまでの変化も記録する
一般に、コンプレッサーが圧縮を始めると低圧側は下がり、高圧側は上がります。停止後はその差が小さくなり、均圧に向かいます。停止時の値や均圧までの時間は車両構造や温度などで変わるため、共通の圧力値・秒数で交換を決めることはできません。
圧縮不足が疑われる場合は、運転中の高圧・低圧と、停止直後からの変化を一緒に記録してください。点検を依頼するときも、この記録が原因確認の手掛かりになります。
症状に合う部品の確認へ
最初は冷えるのに、しばらくすると冷えなくなる場合
入庫直後は冷えていても、時間がたつと症状が出ることがあります。この場合は、冷えている時と、冷えなくなった時の状態を比較することが大切です。再始動すると冷える場合も、再始動する前の状態が原因を探す手掛かりになります。
冷えなくなるまでの時間、停車中か走行中か、風の強さも弱くなるか、再始動や時間を置くと回復するかを伝えてください。
① 冷えなくなった時、コンプレッサーは作動しているか
まず、その時点のコンプレッサーの駆動・制御状態を確認します。クラッチ式では、プーリーが回っているだけで作動中とは判断せず、クラッチがつながっているかを確認します。停止している場合は、電源・リレーなどの電気系統と、車両側からの作動指令を調べます。
停止中の圧力変化を、作動中の圧縮能力と混同しないことが重要です。可変容量式などは、対象車両の整備要領に従って制御状態も確認します。
② 作動しているなら、高圧・低圧の変化を比較する
- 低圧が高め、高圧が低めになった:十分な圧力差を作れているかを確認します。駆動・制御状態や測定条件を確かめたうえで、コンプレッサーの圧縮能力を点検します。
- 両方の圧力が高くなった:コンデンサーの通風、冷却ファンの作動、冷媒の充填量を確認します。冷えている間だけでなく、症状が出た時にもファンが正常に作動しているかを確認します。
- 低圧が下がり、特定の場所に霜や大きな温度差が出た:エキパンやレシーバーなどの流れを確認します。詰まりの判断には、圧力とともに霜の位置・配管温度を使います。高圧が低いという結果だけでは、詰まりの場所までは決まりません。
③ 風の量も弱くなっていないか
「風は出るがぬるい」のか、「風そのものが弱くなった」のかも確認します。エバポレーターが凍結すると、空気が通りにくくなることがあります。風量が落ちている場合は、圧力だけでなく、エバポレーターの霜付きや送風系統も点検します。
技術参考:DENSO コンプレッサー診断表。圧力・霜・温度差の診断項目をもとに、確認の順序を整理しています。
冷媒不足が確認されたら、補充だけで終わらせない
漏れが残ったままでは、補充して冷えるようになっても再び冷媒が減ります。漏れ方によっては冷媒とともにオイルも失われるため、漏れ箇所を修理し、車両・部品メーカーの指定に従って冷媒とオイルを管理します。
コンプレッサーが作動しない場合の確認
A/CをONにしても作動しない場合、コンプレッサー本体以外に原因があることもあります。
システムは圧力スイッチや圧力センサーなどを使って状態を監視しています。冷媒不足などで圧力が低すぎる場合や、放熱不足・過充填などで異常に高い場合は、保護のため作動を停止することがあります。
車両の構成に応じて、次の項目も確認します。
- ヒューズ・リレー
- マグネットクラッチ・クラッチコイル
- 配線・コネクター
- 圧力センサー・温度センサー
- ECUの制御状態
- 可変容量制御バルブ
停止時の圧力だけで冷媒量は判断できない
A/C停止後は、時間の経過とともに高圧側と低圧側の圧力差が小さくなっていきます。
停止時の圧力は冷媒温度などの影響を受けるため、その数値だけで充填量を正確に判断することはできません。
冷媒量の確認・調整は対象車両の指定に従い、必要に応じて回収したうえで、規定量を重量管理して充填します。
サイトグラスの見え方だけでも判断しない
サイトグラス付きの車両では、冷媒の流れや気泡を確認できます。ただし、気泡がないことだけで、適正量とは判断できません。
サブクールコンデンサーを採用したシステムなどでは、サイトグラスの見え方だけで規定量を判断できない場合があります。車両メーカー指定の充填量と点検方法を優先します。
故障診断で確認する項目
一つの数値や症状で交換部品を決めず、測定条件をそろえ、複数の情報から原因を絞り込みます。
- 外気温・回転数・風量などの測定条件
- 高圧・低圧の状態
- 配管温度・吹出口温度
- コンデンサーの放熱状態
- 冷却ファンの作動
- 冷媒量と冷媒漏れ
- エキスパンションバルブの状態
- レシーバーや配管の流路制限
- コンプレッサーの圧縮・制御状態
- 電気系統・センサー類
このリストは、必ず上から順番に作業するという意味ではありません。車両や症状によって、電気制御やファン作動などを早い段階で並行して確認する場合もあります。
コンプレッサー交換前に、故障原因まで確認する
原因を確認せずにコンプレッサーだけを交換しても、冷え不良が改善しない場合があります。
また、回路内に異常が残っていれば、新しいコンプレッサーにも負担をかける可能性があります。
- コンデンサーの放熱不良
- 冷却ファン不良
- 冷媒の過充填・不足
- エキスパンションバルブの異常
- レシーバードライヤーや配管の流路制限
- 回路内の異物や水分
- コンプレッサーオイルの状態
再故障を防ぐには、壊れた部品の確認に加えて、なぜ壊れたのかを調べることが重要です。
まとめ|高圧・低圧をほかの点検結果と組み合わせる
- コンプレッサー吐出側からエキパン入口までが高圧側です。
- エキパン出口からコンプレッサー吸入側までが低圧側です。
- 正常圧力は、車両と測定条件によって異なります。
- 圧力の組み合わせは、確認箇所を絞り込むための手掛かりになります。
- コンプレッサーが動かない場合も、保護制御や電気系統を確認します。
- 停止時圧力やサイトグラスだけでは、適正冷媒量を判断できません。
- 圧力・温度・冷媒量・風量・制御状態を総合して診断します。
部品交換の前に、冷凍サイクル全体の状態を確認し、原因を絞り込むことが重要です。
本記事は、カーエアコンの故障診断における代表的な考え方を解説しています。圧力値・制御方法・部品構成は、車種・年式・冷媒・外気温・コンプレッサー方式などによって異なります。
実車の点検・修理では、対象車両の整備要領書およびメーカー指定の点検条件・基準値を確認してください。
部品の適合確認には、品番・車両情報・現品写真をご用意ください。車台番号は省略せず全桁お知らせください。

