カーエアコン技術編・第14話
R134aのカーエアコンを、冷媒缶・マニホールドゲージ・冷媒用はかりで充填する整備担当者向けの記事です。
基本は、圧力差で冷媒を流し、重さ(g)で充填量を確認すること。停止中に入りにくくなる理由と、指定条件を満たして作動させた後に低圧側から充填する理由を、順に説明します。
対象車両・冷媒缶・工具の説明書を確認してください。残った冷媒の回収には回収機、真空引きには真空ポンプを使います。設備がない工程は対応できる整備工場へ依頼します。R1234yfや電動コンプレッサー車は、それぞれの指定手順を確認してください。
早見表|ガスチャージで困っていること
当てはまる項目を選ぶと、記事内の詳しい説明へ進めます。点検の手掛かりとしてご覧ください。症状だけで故障部品を決める表ではありません。
| 症状・知りたいこと | 確認する内容 |
|---|---|
| 充填前の作業を確認したい | 回収・修理・真空引きの流れ |
| 最初は入るが途中で止まる | 圧力差と入り方が変わる理由 |
| 作動させても入らない | 充填経路と作動状態の確認 |
| 缶が冷えて充填が止まる | 冷えた缶への対処と注意点 |
| 何g入れたか確認したい | はかりを使った充填量の管理 |
冷媒缶・ゲージ・はかりは、それぞれ何をするもの?
- 冷媒缶:車両へ入れる冷媒が入った容器。
- マニホールドゲージ:高圧・低圧を測り、弁で充填経路を管理する工具。
- 冷媒用はかり:缶から出た冷媒の量を、重さ(g)で確認する道具。
- ホース・缶切りバルブ・カプラー:冷媒缶、ゲージ、車両をつなぐ部品。冷媒と工具に対応したものが必要です。
はかり:缶から出た冷媒の重さを確認
圧力ではなく、gで量る
冷媒缶からの充填ホース
ゲージ
ゲージ
ゲージ:車両の高圧・低圧を確認
何g入ったかは、この針では分からない
低圧側のホース → 車両の低圧側サービスポート

コンプレッサー作動中
吸入側へ、気体の冷媒を供給する
作動中は高圧側から充填しない
高圧の測定と、高圧側への充填は別の操作です。
道具の役割と流れを示す概念図です。実際の接続図・バルブ操作図ではありません。高圧測定用ホース、各弁、途中の回路は省略しています。冷媒缶・工具・車両の指定を確認して作業します。
「重量管理」とは、冷媒を何g入れたか量ること
圧力はゲージ、冷媒の重さは、はかりで確認します。車両の冷媒ラベルや整備資料で、冷媒の種類と規定量を確認します。
冷媒用はかりでは、充填前後の重さの差から缶を出た量を確認します。ただし、ホース内に残る冷媒もあるため、車両に入った量を確認するには、ホース内に残る分も考慮します。ホース残量の扱いは使用機器の説明書に従います。缶を手で持ち上げたり、ホースで引っ張ったりしたままの表示で判断しないことも大切です。
また、車両に残っている量が分からなければ、追加した量だけを量っても総量は分かりません。「缶を何本使った」「冷たい風が出た」だけで終わらせず、必要な回収・修理を行ったうえで規定量を管理します。
充填前に済ませること:回収・修理・真空引き
- 冷媒の種類・規定量・指定オイルを確認する。
- 必要な冷媒回収を行う。回路を開く前に、残った冷媒は対応する回収機で回収します。大気へ放出しません。
- 漏れや不具合を修理し、指定の漏れ点検を行う。
- 真空ポンプで空気・水分を除去する。指定された真空条件と保持確認を行います。
- 充填ホース内の空気混入を防ぐ準備を行い、指定方法で充填する。
真空引きは、回路内の空気と水分を取り除く工程です。時間や確認方法は車両・機器の指定に従い、真空保持だけですべての漏れ点検が済んだとは判断しません。[資料1]
漏れがある場合の考え方は、ガス漏れに補充だけで対応するリスクでも説明しています。
車両の真空引きとは別に、充填ホース内の空気も確認する
車両側を真空引きしても、その後のホースの付け替えで空気が入ることがあります。冷媒を車両へ流す前に、充填ホース内の空気を持ち込まない準備を済ませます。
空気抜きは「エアパージ」と呼ばれることもあります。ホースを含めて真空引きする接続方式や、弁で空気の侵入を防ぐ方式など、工具の構造によって準備が異なります。使用工具の説明書で、ホース内の空気除去方法と接続順序を確認してください。アサダの説明書でも、ホースの付け替えによる空気混入と、その防止方法が分けて説明されています。[資料2・冊子6〜7ページ]
継手を自己判断で緩めて冷媒を放出する操作は行わず、車両・冷媒に対応する工具の指定手順に従います。
最初は入るのに、なぜ途中から入りにくくなる?
ポンプなどで押し込まず、冷媒缶と車両の圧力差を利用する場合、冷媒は圧力の高い側から低い側へ流れます。もちろん、接続が正しく、通路が開いていることが前提です。
真空引き後の回路は圧力が低いため、停止中でも指定の経路から冷媒が入ります。充填が進むと車両側の圧力が上がり、缶側との圧力差が小さくなると流れが弱くなります。圧力が釣り合えば、その圧力差だけでは充填が進みません。
アサダのマニホールド取扱説明書にも、規定量に達する前に圧力が均衡して充填できなくなる場合が説明されています。これは圧力差の原理の参考資料で、掲載工具をカーエアコンに使えるという意味ではありません。[資料2]
コンプレッサー停止中
缶側の圧力 > 車両側の圧力
↓
冷媒が車両側へ入る
真空引き後、指定の経路から事前充填する段階。冷媒が入るにつれて車両側の圧力が上がります。
コンプレッサー停止中
缶側の圧力 ≒ 車両側の圧力
↓
押し込む圧力差が小さくなる
停止中に圧力が釣り合っただけでは、故障とは判断できません。規定量に達したかは、圧力ではなく充填量で確認します。
コンプレッサー作動中
缶側の圧力 > 低圧側の圧力
↓
圧力差があれば、冷媒が入る
指定の事前充填・始動条件を満たしてからの段階。コンプレッサーが吸入側の冷媒を吸い込むため、低圧側へ充填する流れを作れます。
圧力の大小関係を簡略化した図です。特定の圧力数値、初期充填量、バルブ操作を指定するものではありません。
なぜコンプレッサーを作動させるの?
コンプレッサーは低圧側から冷媒を吸い込み、高圧側へ送り出します。低圧側の圧力が缶側より低くなれば、缶から車両へ流れる圧力差を利用できます。サンデンも、作動中の低圧側充填では、気体の冷媒を吸入させる方法を説明しています。[資料1・10.3.3節]
車両・コンプレッサー指定の事前充填と始動条件を満たすことが先です。回路が空、または真空状態のまま運転したり、圧力スイッチなどの保護装置を短絡して無理に作動させたりしないでください。
高圧側と低圧側を使い分ける理由
作動すると、高圧側はコンプレッサーが冷媒を押し出す側になります。作動中に冷媒缶を高圧側へ通じさせると、高い圧力が充填器具側にかかる危険があります。サンデンは作動中の高圧側サービスバルブの開放を警告しています。[資料1・10.3節]
停止中に高圧側から事前充填する指定の方式でも、その充填経路を閉じてから始動します。作動中の手動ガス充填は低圧側を使い、液冷媒を直接吸入させません。缶の向きだけで決めつけず、容器の構造と気体取り出し方法を確認してください。
これは、途中で必ずホースを付け替えるという意味ではありません。高圧・低圧の測定接続と、冷媒を流す充填経路は別です。初期充填口、接続、弁操作の順序は、対象車両と工具の指定に従います。
コンプレッサーをONにしても入らない時は?
まず確認したいのは、「実際に作動しているか」「缶側から低圧側へ流れる圧力差があるか」「その途中が通じているか」の3点です。A/CスイッチがONでも、コンプレッサーが実際に吸入・圧縮しているとは限りません。
- 冷媒缶側:残量、容器の温度、缶切りバルブや気体取り出し方法を確認。
- 接続・工具側:カプラーの接続、ホースの折れや閉塞、充填経路の弁を説明書と照合。
- 車両側:高圧・低圧、コンプレッサーの実作動、保護停止、直前の修理内容を確認。
液体と気体が共存する冷媒缶では、温度が下がると圧力も下がります。充填中に缶が冷え、車両側との圧力差が小さくなれば、入りにくくなる要因になります。R134aの温度と圧力の関係は、サンデンの表でも確認できます。[資料1・4.2節]
缶が冷えて充填が止まった時は?
缶内の液冷媒が気化すると熱が奪われ、缶が冷えます。まず作業を中断し、缶の残量・温度、充填先の圧力、ホースや弁の状態を確認してください。
温水の使用可否や充填を再開する条件は、冷媒缶・使用工具の説明書で確認します。指定が確認できない時は自己判断で加熱せず、メーカーへ確認してください。容器に書かれた保管温度を、そのまま加熱してよい温度として扱わないことも大切です。
低圧側から充填している時は、缶側と充填先の低圧側の圧力を比較します。高圧の数値と併せ、接続・通路・実作動を確認して原因を絞ります。詰まりを調べる際も、場所と測定位置を確認します。
ゲージの見方は、高圧・低圧から次の確認箇所を探す方法をご覧ください。
缶を火であぶる、熱湯や指定外の加熱器具で温める、作動中に高圧側から充填する、液冷媒を吸入させる、といった操作は避けてください。異常時は作業を止め、車両と工具の指定手順で点検します。
規定量を入れた後も、作動状態を確認する
充填量を記録し、車両指定の条件で高圧・低圧、吹出口温度、冷却ファン、コンプレッサーの作動、漏れを確認します。圧力や冷えが期待どおりでないからといって、規定量を超えて足し続けないでください。
コンプレッサーオイルは、車両・部品メーカーの指定油を使い、修理内容に応じて量を調整します。[資料3]
自動機には、コンプレッサー停止中に液冷媒を圧送して充填する機種もあります。本記事の手動充填と同じ操作ではありません。自動機を使う場合は、その機械の説明書に従ってください。[資料4]
まとめ|圧力差で流れを理解し、重さで量を確認する
- 冷媒缶は供給元、ゲージは圧力確認、はかりは量の確認に使う。
- 停止中は、缶と車両の圧力が釣り合うと充填が進みにくくなる。
- 指定条件を満たした作動中の低圧側充填では、気体の冷媒を吸入させる。
- 入らない時は、供給側・接続・実作動・圧力を順に確認する。
- 車両指定量を守り、充填後の作動と漏れまで確認する。
参考資料(メーカー公式)
- Sanden SD Service Guide(PDF):4.2節の温度・圧力表、10.2節の真空引き、10.3節の充填。R134a・SDシリーズを対象とする資料。
- アサダ:マニホールドAD・AF取扱説明書(PDF):冊子6〜7ページのホース付け替え時の空気混入防止、7〜8ページの圧力均衡と充填の説明。空調工具の原理の参考であり、掲載工具の自動車への適合を示すものではありません。
- DENSO A/C Compressor Installation Guide(PDF):指定油と油量調整。
- デンゲン:全自動回収再生真空引充填装置 CS-YF134WS-T:エンジン停止状態での液体圧送充填方式。自動機との違いの参考。
相談時に伝える情報と、交換部品の適合確認
- 冷媒の種類・規定量と実際の充填量
- 使用機器・充填方式と、入らなくなった時の状態
- 高圧・低圧、コンプレッサーの作動、直前の修理内容
実車の故障診断は整備工場へ。交換する部品が決まったら、太田美品通商へ品番・車両情報・現品写真をお送りください。現品写真は、無理な取り外し・分解をせず、整備工場で確認できる範囲でご用意ください。
本記事は代表的な整備の考え方を整理したものです。実車の作業は車両・機器メーカーの整備要領に従ってください。冒頭の画像は機器のイメージで、特定製品の形状・適合・接続方法を示すものではありません。
