カーエアコン技術編・第1話
車のエアコンをONにすると、吹き出し口から冷たい風が出てきます。では、カーエアコンはどのように空気を冷やしているのでしょうか。
この仕組みを支える冷媒の循環と状態変化を「冷凍サイクル」といいます。
今回は、コンプレッサー、コンデンサー、レシーバータンク、エキスパンションバルブ、エバポレーターの役割と、冷媒が循環する仕組みを解説します。
基本例として、レシーバータンクとエキスパンションバルブを使用する代表的な構成を取り上げます。実際の構造や制御方法は、車種やシステムによって異なります。
冷媒は5つの主要部品を通って循環する
代表的なレシーバーサイクルでは、冷媒は次の順番で流れ、再びコンプレッサーへ戻ります。
- コンプレッサー:ガス冷媒を圧縮する
- コンデンサー:熱を車外へ放出し、冷媒を液化させる
- レシーバータンク:液冷媒を一時的に蓄える
- エキスパンションバルブ:冷媒を減圧し、流量を調整する
- エバポレーター:空気から熱を吸収し、冷媒を蒸発させる
エバポレーターを出たガス冷媒は、再びコンプレッサーに吸い込まれます。
画像を押すと、大きな図を別タブで確認できます。
冷媒は、圧力・温度・状態を変えながら熱を運ぶ
冷媒は、同じ状態のまま循環しているわけではありません。サイクル内で圧力や温度が変わり、気体・液体・両方が混在した状態へと変化します。
| 工程 | 主な部品 | 冷媒の変化 |
|---|---|---|
| 圧縮 | コンプレッサー | 低圧のガスから、高温・高圧のガスになる |
| 凝縮 | コンデンサー | 熱を放出し、ガスから高圧の液体へ変化する |
| 減圧 | エキスパンションバルブ | 高圧の液体から、低温・低圧の液とガスが混在した状態になる |
| 蒸発 | エバポレーター | 空気から熱を吸収して液体が蒸発し、低圧のガスになる |
この「圧縮・凝縮・減圧・蒸発」を繰り返すことで、車室内の熱を車外へ運んでいます。
① コンプレッサー|ガス冷媒を圧縮する
コンプレッサーは、エバポレーターから戻った低圧のガス冷媒を吸い込み、圧縮して高温・高圧のガス冷媒にします。
圧縮された冷媒は、次のコンデンサーへ送り出されます。
コンプレッサーが直接、冷たい空気を作っているわけではありません。
コンプレッサーには、斜板式、スルーベーン式、スクロール式など、さまざまな構造があります。コンプレッサーの種類や容量制御方式、交換時の注意点は、カーエアコンのコンプレッサー解説もご覧ください。
② コンデンサー|冷媒の熱を車外へ放出する
コンデンサーには、コンプレッサーから高温・高圧のガス冷媒が入ります。
走行風や冷却ファンの風によって熱が車外へ放出され、冷媒はガスから液体へ変化していきます。この変化を「凝縮」といいます。
放熱不足や冷却ファンの不具合は、冷媒圧力や冷房性能に影響します。冷却方式と高圧異常の確認ポイントは、コンデンサーの解説をご覧ください。
③ レシーバータンク|液冷媒を一時的に蓄える
コンデンサーで液化した冷媒は、レシーバータンクへ送られます。
レシーバータンクは、冷房負荷に応じて冷媒を供給できるよう、液冷媒を一時的に蓄えます。内部にストレーナや乾燥剤を備え、異物や水分を取り除く構造のものもあります。
ストレーナ
冷媒回路内の異物などを取り除きます。
乾燥剤
冷媒回路内の水分を吸着します。
すべての車両に、独立したレシーバータンクがあるわけではありません。車種によっては、コンデンサーと気液分離器(モジュレータ)を組み合わせたサブクールコンデンサー方式などが採用されています。構造や交換時の確認点は、レシーバータンクの役割と同時交換についてもご覧ください。
④ エキスパンションバルブ|冷媒を減圧し、流量を調整する
レシーバータンクを通過した高圧の液冷媒は、エキスパンションバルブへ送られます。
冷媒がバルブの絞りを通過すると圧力が下がり、低温・低圧の液とガスが混在した状態となってエバポレーターへ入ります。
また、エキスパンションバルブは、エバポレーターの状態に応じて冷媒の流量を調整します。構造や不具合時の確認点は、エキスパンションバルブの解説にまとめています。
- 高圧の液冷媒を減圧する
- エバポレーターへ送る冷媒量を調整する
⑤ エバポレーター|空気の熱を冷媒に吸収させる
エキスパンションバルブを通過した低温・低圧の冷媒は、エバポレーターへ入ります。
ブロワによって送られた空気がエバポレーターを通過すると、その空気の熱が冷媒に吸収されます。熱を奪われた空気は温度が下がり、車室内へ送られます。
一方、冷媒は熱を吸収して蒸発し、ガスとなってコンプレッサーへ戻ります。
カーエアコンが除湿できる理由
エバポレーターには、空気を冷やすとともに除湿する働きがあります。
湿った空気が冷たいエバポレーター表面に触れて冷やされると、条件に応じて空気中の水分が結露し、水滴になります。この水はドレンホースを通って車外へ排出されます。
夏場、エアコンを使用した車の下に水が落ちていることがあります。正常なエアコン作動による結露水であれば、異常ではありません。
この除湿作用は、雨天時などの窓ガラスの曇り取りにも役立ちます。
高圧側と低圧側はどこで分かれる?
冷凍サイクルでは、コンプレッサーで冷媒の圧力が上がり、エキスパンションバルブで圧力が下がります。この2つを境に、高圧側と低圧側に分けて考えます。
| 区分 | 範囲 | 主な冷媒の状態変化 |
|---|---|---|
| 高圧側 | コンプレッサー吐出側から、エキスパンションバルブ入口側まで | 高温・高圧のガスから、高圧の液体へ |
| 低圧側 | エキスパンションバルブ出口側から、コンプレッサー吸入側まで | 低温・低圧の液とガスが混在した状態から、低圧のガスへ |
高圧側と低圧側の圧力は、故障診断の重要な情報です。ただし、圧力だけで故障部品を断定することはできません。
冷媒圧力は、外気温、コンプレッサーの作動条件、冷媒量、コンデンサーの放熱状態、冷却ファン、エキスパンションバルブの状態などによって変化します。
冷媒は多く入れるほど冷えるわけではない
カーエアコンには、車両ごとに指定された適正な冷媒量があります。
冷媒が不足している場合
エバポレーターへ十分な冷媒を供給できず、冷房能力が低下する原因になります。
冷媒を入れすぎた場合
高圧側の圧力が異常に高くなる原因となり、冷房性能の低下や、コンプレッサー・配管・コンデンサーなどへの過大な負担につながる可能性があります。
「冷えないから、とりあえず追加する」という判断では、冷媒量が適正になるとは限りません。
サブクールコンデンサー方式などでは、従来のレシーバーサイクルと冷媒量の確認方法が異なる場合があります。対象車両の方式と指定値を確認してください。
冷えないときは、冷凍サイクル全体を確認する
コンプレッサーが正常でも、次のような原因で冷房能力が低下することがあります。
- コンデンサーが十分に放熱できていない
- 冷却ファンが正常に作動していない
- 冷媒量が適正でない
- エキスパンションバルブに異常がある
- エバポレーターが正常に熱交換できていない
- 冷媒回路や制御系に異常がある
冷媒量、圧力、放熱状態、関連部品の作動などを合わせて確認し、原因を絞り込むことが大切です。
冷凍サイクルを理解することが、診断の第一歩
カーエアコンは、冷媒が圧縮・凝縮・減圧・蒸発を繰り返し、車室内の熱を車外へ運ぶことで冷房を行います。
- コンプレッサー:ガス冷媒を圧縮する
- コンデンサー:車外へ熱を放出して冷媒を凝縮させる
- レシーバータンク:液冷媒を蓄え、ストレーナや乾燥剤で異物・水分を除去する
- エキスパンションバルブ:冷媒を減圧し、流量を調整する
- エバポレーター:冷媒を蒸発させ、空気から熱を吸収する
どこかが正常に機能しなければ、冷房性能が低下する可能性があります。部品交換を判断する際も、冷凍サイクル全体の状態を確認することが重要です。
次回のカーエアコン技術編
コンプレッサーとはどんな部品?種類・構造・役割を詳しく解説冷凍サイクルの中心となるコンプレッサーについて、構造や方式の違いを解説します。
本記事は、レシーバータンクとエキスパンションバルブを使用する代表的な構成を中心に説明しています。
実際の構造、使用冷媒、制御方法、圧力、冷媒充填量は、車種・年式・システムによって異なります。実車の点検・修理では、対象車両の整備要領書、メーカー指定値、使用冷媒、指定充填量をご確認ください。
部品の適合確認には、品番・車両情報・現品写真をご用意ください。車台番号は省略せず全桁お知らせください。

