カーエアコン技術編・第2話
カーエアコンの冷凍サイクルの中で、冷媒を圧縮し循環させる中心的な役割を担っているのがA/Cコンプレッサーです。
「エアコンが冷えない」
「コンプレッサーから異音がする」
「マグネットクラッチが入らない」
こうした症状が出ると、まずコンプレッサー故障を疑われることがあります。
カーエアコンは、コンプレッサー・コンデンサー・レシーバー・エキスパンションバルブ・エバポレーター・冷却ファン・冷媒・オイル・各種制御など、複数の要素が正常に機能して初めて冷えます。
今回はカーエアコン技術編・第2話として、コンプレッサーの役割、構造の違い、固定容量・可変容量の仕組み、マグネットクラッチ、電磁制御バルブ、故障診断、交換時の注意点まで詳しく解説します。
コンプレッサーは何をしている部品?
エバポレーターで車室内の熱を吸収した冷媒は、低圧のガス冷媒となってコンプレッサーへ戻ってきます。
コンプレッサーはこの冷媒を吸入して圧縮し、高温・高圧のガス冷媒としてコンデンサーへ送り出します。
↓
コンプレッサーで圧縮
↓
高温・高圧のガス冷媒
↓
コンデンサーへ
コンプレッサー自体が直接「冷気」を作っているわけではありません。
冷媒を圧縮して高圧側へ送り出し、冷凍サイクル内に高圧側と低圧側を作ることで、コンデンサーでの凝縮、エキスパンションバルブでの減圧、エバポレーターでの蒸発を成立させています。
つまりコンプレッサーは、冷媒を圧縮・循環させ、冷凍サイクルを成立させる中核部品です。
コンプレッサーはすべて同じ構造ではない
カーエアコン用コンプレッサーには、複数の圧縮方式があります。
大きく分けると、ピストンを往復させて圧縮する「ピストン式(往復動式)」と、ローターやスクロールを回転・旋回させる「回転式」があります。
画像を押すと、大きな図を別タブで確認できます。
ピストン式(往復動式)
ピストン式は、ピストンを往復運動させることで吸入 → 圧縮 → 吐出を繰り返す方式です。
代表的なものとして、クランク式や斜板式があります。
斜板式
シャフトに対して斜めに配置された斜板(スワッシュプレート)の動きを利用し、複数のピストンを往復させます。
斜板式には固定容量タイプだけでなく、斜板角を変えてピストンストロークを変化させる可変容量タイプもあります。
例えばDENSOでは、デュアルスワッシュプレート式に固定容量タイプ、シングルスワッシュプレート式に可変容量タイプがあります。
スルーベーン式
スルーベーン式は回転式コンプレッサーの一つです。
ローターに設けられたベーンによって圧縮室を形成し、ローターの回転に伴う容積変化によって冷媒を圧縮します。
ピストンを往復させる斜板式とは、圧縮方法そのものが異なります。
スクロール式
スクロール式は、固定スクロールと旋回スクロールという2つの渦巻き形状を組み合わせて冷媒を圧縮する方式です。
冷媒は外周側から取り込まれ、旋回スクロールの動きによって中心方向へ移動しながら圧縮されます。
自動車用スクロールコンプレッサーでは、DENSOやSandenのほか、三菱重工系のスクロールコンプレッサーも広く知られています。
三菱重工ではカーエアコン用に独自の3Dスクロール技術を採用したコンプレッサーを開発し、ベルト駆動式だけでなくハイブリッド車・EV向け電動コンプレッサーにもスクロール技術を展開しています。
構造と「容量制御」は別に考える
斜板式・ベーン式・スクロール式というのは、「どのような構造で冷媒を圧縮するか」という分類です。
一方、固定容量式・可変容量式は、「どのように吐出量を調整するか」という別の分類です。
圧縮機構
斜板式・ベーン式・スクロール式など
容量制御
固定容量式・内部制御式可変容量・外部制御式可変容量など
固定容量式・可変容量式の違い
画像を押すと、大きな図を別タブで確認できます。
固定容量式
固定容量式は、基本的に1回転あたりの吐出量が一定です。
マグネットクラッチを使用するタイプでは、コンプレッサーをON/OFFすることで冷房能力を調整する方式があります。
内部制御式可変容量
内部制御式の可変容量斜板式コンプレッサーでは、内部の圧力状態などを利用して斜板角を変化させ、ピストンストロークと吐出量を調整します。
冷房負荷が大きい場合は吐出量を増やし、負荷が小さい場合は吐出量を減らすことができます。
外部制御式可変容量(電磁制御バルブ式)
外部制御式では、電磁制御バルブ(コントロールバルブ/ECV)を使用して容量を調整します。
車両側のエアコンECUなどが、温度・冷媒圧力・エンジン負荷などの情報をもとに、コントロールバルブへ電気信号を送ります。
可変容量斜板式では、その制御によってコンプレッサー内部の圧力バランスを変え、斜板角を変化させて吐出量を調整します。
そのため、「プーリーが回っているからコンプレッサーは正常」とは判断できません。
マグネットクラッチ式とクラッチレス式
エンジンの回転をコンプレッサーへ伝える方法の一つに、マグネットクラッチを使用する方式があります。
作動条件が整い、クラッチのコイルへ通電すると、クラッチプレートが吸着してコンプレッサーシャフトへ駆動力が伝わります。
一方、外部制御式可変容量コンプレッサーには、マグネットクラッチを持たないクラッチレス式もあります。
この場合はコンプレッサーを機械的に回転させながら、コントロールバルブによって実際の吐出量を変化させます。
したがって、「クラッチがカチッと入らない=故障」という従来型の見方だけでは診断できません。
マグネットクラッチ不良では何が起きる?
マグネットクラッチ式で不具合が発生した場合、フィールドコイルの断線・焼損などが確認されることがあります。
コイルが断線すれば、通電しても磁力が発生せず、クラッチプレートを吸着できません。
また、コイルやクラッチに焼損が見られる場合は、クラッチ部分だけを原因と決めつけないことが重要です。
- 異常高圧
- コンデンサーの放熱不足
- 冷却ファン不良
- 冷媒過充填
- コンプレッサー内部ロック
- クラッチ滑り
- 電源電圧の異常
特に高圧側が異常に高くなると、コンプレッサーの駆動負荷が大きくなります。その負荷によってクラッチが滑ると、摩擦熱でクラッチ周辺が損傷することがあります。ただし、焼損の原因は異常高圧だけではありません。電源電圧の低下、クラッチのすき間、配線・接続部の状態、頻繁な接続・切離しも確認します。
焼けたクラッチやコイルだけを交換しても、根本原因が残っていれば再発する可能性があります。
圧力異常などに対する保護制御で、クラッチへの通電が止められている場合があります。作動指令の有無、通電時の電圧、配線・アース、クラッチのすき間、コイルの状態を整備要領に沿って点検し、圧縮機構の故障と切り分けます。保護回路を短絡して強制作動させないでください。
技術参考:Sanden SDサービスガイド(クラッチ点検・滑りの説明)。記載の個別数値は対象製品用であり、全車共通ではありません。
「冷えない=コンプレッサー不良」ではない
エアコンが冷えない原因は、コンプレッサーだけではありません。次のような原因でも冷房能力は低下します。
- 冷媒不足
- 冷媒過充填
- コンデンサーの放熱不足
- 冷却ファン不良
- レシーバー/ドライヤーの詰まりや機能不良
- エキスパンションバルブの不具合
- 配管内の詰まり・異物
- 電気系・センサー・制御系の異常
- 外部制御式コンプレッサーのコントロールバルブや制御信号の異常
コンプレッサーオイルも非常に重要
コンプレッサー内部では、方式に応じてピストン・斜板・シュー・ベアリング・ベーン・スクロールなどが高速で作動しています。
これらを潤滑・冷却するために、コンプレッサーオイルが使用されています。
オイル不足や不適合なオイルの使用は、潤滑不良や焼き付きなど重大な故障の原因になります。
使用するオイルは、車両メーカー・コンプレッサーメーカーが指定する種類と量を確認することが基本です。
電動コンプレッサー
ハイブリッド車やEVでは、エンジン停止中でもエアコンを作動させるため、エンジンのベルトではなく高電圧電源と電動モーターで駆動する電動コンプレッサーを採用した車両があります。
電動コンプレッサーでは、スクロール式が広く採用されています。
圧縮機構だけでなく、モーター・インバーター・高電圧回路まで含めた構造になるため、ベルト駆動のコンプレッサーとは診断方法や取扱いが異なります。
コンプレッサー交換で一番大切なのは「なぜ壊れたか」
壊れたコンプレッサーを新品やリビルト品へ交換するだけで、修理が完了するとは限りません。なぜ故障したのかを確認する必要があります。
- 異常高圧
- コンデンサーの放熱不足
- 冷却ファン不良
- 冷媒過充填・不足
- コンプレッサーオイル不足
- 不適合オイル
- エキスパンションバルブ不良
- 冷凍サイクル内の詰まり
- 異物や金属粉の混入
- 配管内部の汚染
原因を残したまま取り付けると、新しいコンプレッサーまで再び故障する可能性があります。
当社ではレシーバーとエキスパンションバルブを最低限同時交換
太田美品通商では、A/Cコンプレッサー交換時に、レシーバー(レシーバータンク/ドライヤー)とエキスパンションバルブの同時交換を最低限必要としています。
ただし、この2点を交換すればすべて解決するという意味ではありません。
焼き付きなどでコンプレッサー内部から金属粉・異物が流出している場合は、冷媒回路全体の汚染状態を確認する必要があります。
サイクル洗浄や、構造上十分に洗浄できない部品の交換が必要になる場合もあります。
コンプレッサー交換では、冷凍サイクル全体を正常に戻す
冷凍サイクル全体を正常な状態へ戻す修理です。
故障原因を確認し、必要な関連部品を交換し、異物や詰まりがないことを確認したうえで、指定されたオイル・冷媒量で組み上げます。
交換したコンプレッサーを正常に使用するためには、こうした周辺の確認と整備も重要です。
まとめ|構造と制御方式を理解して診断する
- コンプレッサーは冷媒を圧縮・循環させる中核部品
- 圧縮機構にはピストン式・ベーン式・スクロール式などがある
- 「構造」と「容量制御」は別の分類
- 固定容量式、内部制御式可変容量、外部制御式可変容量がある
- 外部制御式では電磁制御バルブ(ECV)と制御信号を確認する
- マグネットクラッチ式とクラッチレス式では診断方法が異なる
- コイルやクラッチの焼損では、高圧異常などの背景原因も確認する
- 冷えないという症状だけでコンプレッサー不良とは断定できない
- 当社では交換時にレシーバーとエキスパンションバルブを最低限同時交換する
- 故障した原因を特定し、冷凍サイクル全体を正常に戻すことが重要
コンプレッサーの種類や制御方式を理解せず、従来型と同じ感覚で診断すると、正常なコンプレッサーを故障と判断してしまう可能性もあります。
カーエアコン修理では、冷凍サイクル全体と制御方式を理解して診断することが重要です。
コンデンサー・レシーバー・サブクールコンデンサーの役割
コンプレッサーで高温・高圧になった冷媒が、どのように放熱・凝縮されるのかを詳しく解説します。
本記事では、カーエアコン用コンプレッサーの代表的な構造・制御方式を解説しています。
実際の構造、容量制御方式、使用冷媒、コンプレッサーオイル、交換手順、関連部品の交換条件などは、車種・年式・コンプレッサー型式によって異なります。
実車の点検・修理時は、対象車両の整備要領書およびコンプレッサーメーカーの指定事項を確認してください。
部品の適合確認には、品番・車両情報・現品写真をご用意ください。車台番号は省略せず全桁お知らせください。

